跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
「こちらになります」

「うわぁ、かわいいですね」

売り上げに直結しなかったとしても、こうして足を運んでくれる人がいるだけで嬉しくなる。

「ありがとうございます。気になるものがございましたら、お手にとってご覧ください」

「これ! こういうマグカップを探してたのよ。意外と重いけど……サイズは使いやすそうだし、置いておくだけでもかわいい」

隣の男性と商品を確かめながら、あれこれ悩む姿をほほえましい気持ちで見つめる。

「えっと……及川さん?」

ふと顔を上げた女性が、私の胸元に着けた名札を確認しながら呼びかけてきた。

「はい」

〝及川さん〟と呼ばれるのにもすっかり慣れて、戸惑わずに返せるようになった自分に複雑な気持ちになる。もうすぐ手放すものだとうな垂れそうになったが、今は接客中だと意識を切り替えた。

「私、こういったナチュラルな雰囲気のものが好きで……ほら、こんな感じの」

そういいながら、バッグから取り出した一冊の本を開いて見せてきた。
そこにはまさしくこのコーナーを計画したときに参考にしたような、ナチュラルな雑貨を使用したオシャレな部屋が紹介されていた。

クッションやエプロンなどの布物は、きなりのリネンが中心だ。キッチンのカウンターに置かれているかわいらしいハーブの寄せ植えは、観賞用だけでなくておそらく料理の材料としても使えるのだろう。テラコッタの植木鉢が、部屋の雰囲気によく合っている。その下には汚れ防止のためかカラフルなデザインのタイルが敷かれていた。こういう商品にも挑戦できるかもしれないと、頭の片隅に書き留めておく。

「素敵なお部屋ですね」

本心でそう返すと、女性は満足そうに微笑んだ。

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