跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
「新居をこういう感じにしたくて、あちこち店を回ってるんです。このざらざらした素材の陶器がどうしても欲しくて」

ページをめくる手を止めて、商品を見つめながら夢中な様子で話す彼女からは、自分の好きなものへの強いこだわりを感じる。きっと少しの妥協もしたくなくて、時間をかけて選んでいるのだろう。

連れの男性も、賛成するようにうなずいている。趣味の合うお似合いのふたりに、心が温かくなった。

「こちらは粉引きという技法になります。使う前に水につけておくという手間はかかりますが、味わいがあっていいですよね」

水じみができやすいという欠点はあるが、このひと手間で防げる。この人なら、それも面倒に感じなさそうだ。

「使い続けていると少しずつ風合いも変わっていくので、おもしろいんですよ」

「へえ」

ますます興味を持ってくれたようで、顔を近づけてじっくりと吟味している。

それも落ち着いた頃に、新たな紹介をする。

「こちらなんかは、しのぎといって表面を削って模様をつけたものになります」

マグカップ以外にもコーヒーカップのセットや器を紹介すると、興味津々に聞いてくれる。相手からはこの時間を楽しんでくれているのが伝わり、話している私も気分が高揚する。

最終的にふたりは、マグカップや器など数点購入して満足そうな顔をした。

「及川さん、いろいろと教えてくれてありがとうございます。やっと思うものが見つけられてよかったです」

「お役に立てて、私も嬉しいです。またぜひ、お越しください」

喜んでもらえたという充実感に浸りながら、帰っていくふたりの後ろ姿を見つめ続けた。

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