跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
「愛佳」

ハッとして振り向くと、千秋さんが立っていた。

「打ち合わせは終わったんですか?」

「ああ。それにしても、ずいぶん楽しそうに接客していたな」

「み、見てたんですか?」

変なところはなかったはずだが、大丈夫だったろうかとうろたえる。それをくすくす笑う千秋さんを、気恥ずかしさをごまかすようにジト目で見やった。さすがに睨むのだけは自重した。

「このコーナーは、愛佳の提案なんだろ?」

千秋さんが見つめたのは、さっきまで接客をしていた一角だ。

「はい。若い世代に人気が出そうだったので、作ってみました」

その場に足を向けた千秋さんに続いて、彼の隣で立ち止まる。

「場違いだって、社長もおっしゃってましたよね?」

「え?」

少し離れた場所に、岸本さんが立っていた。どうやらこちらのやりとりを聞いていたようだ。

「場違い……」

得意げな表情の彼女に、ズキリと胸が痛む。
岸本さんに言われるだけならまだしも、千秋さんまでそんなふうに感じていたのか。やはり私の考える案なんて、子どもだましのような拙いものにすぎなかったらしい。

「岸本。ここが客の目のある場だとわかっての発言か?」

いつもより低い千秋さんの声に、うつむきかけた顔を上げる。

「そ、それは……」

「ちょうどいい。ふたりとも、裏へ行って話をしようか」

ニヤリとした千秋さんに、反射的に「遠慮します」と言いたくなるが、ガシリ腕を掴まれてしまえば従うしかない。

「……はい」

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