跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
「さてと」

これで問題は解決したはず、よね?

岸本さんとの対峙で疲れ切って脱力しかけていたが、最初にここへ入った時と同じ口調でそう言った千秋さんに、慌てて姿勢を正した。

「お義父さんに早退の許可は取ってあるから、このままちょっとうちへ帰ろうか」

「そ、早退!?」

意味がわからないし、その嘘くさい笑みが怖い。しかも、社長ではなくお義父さんと言ったところに、なにか意図的なものを感じる。

「なんで?」

「なぜだろうなあ。自分の胸の内に聞いてみるといい」

不穏な空気に、やばいと本能が告げてくる。

「で、でも、仕事が……」

悪あがきをしたが、許してくれるはずがなかった。
そのまま引きずられるようにして廊下に出ると、途中で父に出くわした。菩薩顔で「お疲れ」と手を振る父に、なぜ勝手に早退の許可を出したのかと問い詰めたいが、今は叶いそうにない。

抵抗もむなしくタクシーに乗せられると、どこにも寄らずに本当に自宅に連れ帰られてしまった。

「えっと……?」

向かったのは、なぜか夫婦の寝室だった。久しぶりに足を踏み入れてきょろきょろと見渡したが、以前となにひとつ変わっていない。
そうしているうちに背後でガチャリとカギの閉まる音が響き、ぎくっと体を強張らせてこわごわ振り返った。

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