跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
今が秋なら、茶菓子にはぜひ岐阜の名産品である栗きんとんを出したいところだが、6月では残念ながら時季外れだ。代わりに取り寄せたのは、加藤製陶の出発点でもある地域で営まれている小さな和菓子店が作る羊羹だった。

竹の皮に包まれたこの品は、菊乃さんが療養で岐阜県を訪れていた際に私の祖母が紹介したと聞いている。彼女はたいそう気に入ったようで、不意に食べたくなるのだと以前訪問した際に話していた。

小豆色をした羊羹には、薄い色味の皿がよいだろう。でも、単に真っ白なものでは芸がない。
先日出たばかりの新橋色の皿は斬新でおもしろいし、粉引きの味わいのあるものも捨てがたい。多角形の皿もあるが、深刻な話になるかもしれない場では少しがちゃがちゃして見えそうだから今日はやめておこう。

あれこれと悩んだ結果、繊細な色を作り出せると知ってもらうために、最初に思いついた新橋色の銘々皿に決めた。


昼の休憩が終わると、一段とそわそわし出した父を横目に、事務室で自分に任された業務に取り組んだ。

父はその見た目通り、とにかく優しい人だ。ただ、それだけでは商売はうまくいかない。時流を見極める目やときには狡賢さも必要だが、残念ながら父にはないものだと娘ながらに思う。

海外製の安価なものが溢れるだろうと予測を立てて、対策を練るべきタイミングがあったはずなのに、加藤製陶はその波に乗り損ねてしまった。それは紛れもなく、社長である父の力不足も原因のひとつだろう。

私も仕事に携わるようになって以来、未熟なりにいろいろと考えてきた。しかし千秋さんに指摘されてわかったが、どれもこれも失敗するのが目に見えている方策ばかりだ。

商品の品質が悪いわけではない。どれも胸を張ってお勧めできるものだと自負している。どうかもう一度、多くの人に手に取ってもらいたい。そんな思いを胸に、来客の知らせを待った。

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