跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
「社長、お客様がいらっしゃいました」

「あ、ああ。すぐに行くから、応接室にお通しして」

一層高まった父の緊張が、手に取るように伝わってくる。

「お父さん、私もお茶を出したらそのまま話し合いに残るから」

さすがに〝大丈夫だよ〟と続けるのは、あまりにも父の立場がないと自重した。

「頼んだよ」

一秒でも早く行ってあげなければ、父は卒倒するのではないかというほどの様子だ。手早く準備をすると、お盆を手に応接室のドアをノックした。

「ああ、愛佳か」

「千秋さん?」

ソファーに座る自分の夫を見て、きょとんとする。まさか、千秋さん本人が来るとは思ってもみなかった。

「なんだ、驚いた顔をして。訪問すると、朝言ったろ?」

「で、でも、まさか千秋さん本人が来るとは……忙しいんじゃないの?」

今は仕事中にも関わらず、想定していなかった夫の登場に驚いて素の口調が出てしまう。砕けた調子だったが、幸い誰からも苦言は上がらなかった。

「忙しいのは否定しないが、妻の実家の話だぞ。俺を差し置いて、誰が来るんだ?」

「あ、ありがとう、ございます」

半ば呆然としてつぶやくと、千秋さんはくすりと笑った。

私の父の前であっても、千秋さんの俺様なキャラは隠しきれていない。そもそも隠そうとしていないようだ。そういう態度でいてくれた方が、父の緊張も少しは解れるだろう。
それに、この気安いやりとりに、私生活の方は大丈夫そうだと伝わるかもしれない。

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