桜が咲く頃に、私は
一階のホールで飲み物を買おうと、翠と二人で歩いていたら……階段を上ってくる広瀬と鉢合わせしてしまった。


「あ、広瀬」


翠は何気なくそう呟いたけど、顔を上げた広瀬は私を見るなり顔を逸らして。


通り過ぎて教室の方に歩いて行った。


「あらぁ……思ってたよりまずい雰囲気かもね、これは。てか、今の見た? 結構派手に怪我してたけど……あれもいじめかな?」


すれ違った広瀬の顔には、確かに怪我があって。


テープで留めたガーゼからはみ出しているのが見えた。


「あんなに……酷いことになってたんだ。でも、なんで……」


「さあねぇ? あいつの性格なら、イラつくやつはイラつくだろうね。昔の深沢みたいにさ。てか、気になったら聞いてくれば? あんた、いつからそんな大人しくなったわけよ」


「え、でも……私と広瀬はもう……」


このまま関わらずに終わろうと決めたのに、関わってまた、広瀬とよりを戻したら……私が死ぬ時に悲しませることになってしまう。


そんな私を見て、翠はイライラしたような口調で。


「あーもう! 早春、あんたさ、もうすぐ死ぬんでしょ!? どうすんのよ、このまま気になってることを見て見ぬふりして、何もせずに死んで行く気なの!? どうせあんたのことだから、まだ好きなんでしょ? 広瀬がさ」
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