桜が咲く頃に、私は
わずか沈黙が流れる。


緊張感のある、怖い沈黙ではない。


空が何を言うのか、期待する沈黙。


「……バーカ。そんなのどうでもいいだろ。泊めてやってるんだから」


「あ、誤魔化すつもりなんだ? 今尾に言ってたよね? 『俺の女に刃物を』とかなんとかさ。私、いつから空の女になったんだろうね? あ、でも好きだって言われたし、空はそのつもりだったってことかな?」


立ち止まっている空を置いて、また歩き出した。


「何なんだよ。ちょっとおかしいぞお前。やめろよそういうの。お前らしくないぞ」


一際大きなため息をついた空。


私は足を止めて、小さく空っぽの言葉を吐き出した。


「私らしいって何……」


生き返った前と後で、私は変わったと思っていた。


何も意味なんてなかった人生に、広瀬と一緒に歩むことで意味のある物に変わったと思っていた。


でも、それは無理をして広瀬と歩調を合わせていただけで、今まで見えなかった広瀬の世界が見えていただけだったんだ。


それは……私の世界じゃなかった。


「死ぬ前と同じように、何も楽しくなくて死んでもいいって思いながら生きていれば私らしいの!? 好きな人には好きって言って、恥ずかしいくらいに甘えるのが私らしいの!? もう、何が私らしいのかわかんないよ! どんな私を演じたって私じゃないみたいだし、私らしいのはどんなのか教えてよ!」


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