桜が咲く頃に、私は
「……悪い。俺が悪かった。無気力でも、怒ってても、可愛く甘えてても……全部『桜井早春』なんだよ。一部分だけ見て、お前らしくないなんて言うべきじゃなかった」


興奮気味に喚き散らした私に、落ち着いた声で語り掛ける空。


どうしてこんなにイライラしてるんだろう。


どうして空に八つ当たりしてるんだろう。


理由なんてわかってるのに。


どれだけ、広瀬とはとっくに終わっていたなんて言い訳をしてみても、この一ヶ月間ずっと引きずっていたんだ。


空とのキスを見られて、言い訳もせずに大人ぶってさ。


この苛立ちは、どうすることも出来なかった私に対しての苛立ちだったんだ。


「じゃあ、私は一体どんな人間なの? 空に答えられるの!? 私は……」


そこまで言った時、空が私に近寄って抱き締めて、私と唇を重ねた。


突然の、まるで求めているかのようなキス。


脳の奥から溶けだしそうで、いつもとは全く違う。


そして、空はすぐに口を離した。


空、「36」。私、「69」


「まだ10秒経ってないのに。数字、減ってるよ。勿体ない」


「早春は……俺にとって、命を失っても構わないって思える人だ。だから、何度だってキスをするよ。惜しいとは思わない。どんな早春だって好きだから。もう広瀬は忘れろ。俺がいるから」
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