桜が咲く頃に、私は
「ダメ! 勿体ないから! 今日からは空が寝た後にキスするから……って思ったけど、夢ちゃんとの約束破っちゃった。私、アパートから出て行かなきゃダメだね」


空の言葉は正直嬉しかった。


この一ヶ月間、広瀬のことをずっと考えていた裏で、少しずつ空が大きくなっていたから。


これじゃあ、二股を掛けてたとか言われてもおかしくないよね。


最後の最後まで、広瀬より空が大きくなることはなかったけど、今は私を必要としてくれる空が一番大きい。


「早春、スタンガン出しなよ」


私に手を出して、スタンガンを渡すように促す。


「え? なんで」


このタイミングで不思議に思いながら、バッグの中からスタンガンを取り出した。


そして、それを空の手に乗せた瞬間。


川に向かって大きく弧を描いて投げられたのだ。


「もういらないだろ。身の危険を感じるような所に泊まることもないし、何より早春は話し合いに行っただけで手は出さなかった。喧嘩したのは俺とシュンさんだからさ。夢との約束は破ってない。だろ?」


スタンガンを投げた手を、そのまま私に向けて笑顔を見せた空。


私はその手を取って、一緒に歩き始めた。


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