桜が咲く頃に、私は
空が指差す場所で屈んで、見上げた私はその目をジッと見て。


こうして見たら、確かにあの時の人だって思えるのに、どうして全然気付かなかったんだろう。


ギターを弾くフリをしながら、屈んでいる私を見て笑顔になる。


「こんな感じだったよな。それで早春が困った顔で言ったんだよ」







「……ねえ、家に泊めてよ。行くところがないんだ」








どんな言葉を掛けたかは覚えていないけど、多分、私の性格だとこんなことを言ったんじゃないかなと思う。


「ああ、そうそう。そんな感じだった」


「……そうじゃなくてさ。『家に泊めてよ。行くところがないんだ』」


その言葉を、キョトンとした顔で私を見ていた空が、何かに気付いたように私に手を差し出した。


「ずっと待ってたよ。俺の家だったら、好きなだけいていいから。行こうか」


空の手にそっと触れ、引っ張り上げられて私は立ち上がった。


事故に遭うよりもずっと前から、私と空は出会っていて、この場所で交した約束が、今やっと果たされたんだ。


視線が絡み合い、どちらからともなく顔を寄せて。


お互いに求めるようにキスをした。


長い、長いキスを。


空、「35」、私、「68」。


10秒なんてとっくに過ぎて、どれだけの時間が経ったのかはわからない。


唇を離して、額を付けた状態で空が呟く。


「じゃあ、俺の彼女になる?」


「家に着くまで考えてみる」


クスクスと笑って、私は空を抱き締めた。
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