桜が咲く頃に、私は
「早春、数字がかなり減ってるけど……どうしたんだよ。そんなに幸せを感じてたらすぐに死ぬでしまうぞ?」


横になって、私の手を握りながら空が小声で呟いた。


「仕方ないでしょ。私は空だけじゃなくて、夢ちゃんと過ごしてても幸せを感じちゃうんだから。やっとまともな家族を持てた気分だから、仕方ないよね」


優しく空の手の甲を親指の腹で撫でて、いつものように空が眠るまでそばにいる。


幸せを感じそうなこんな状況でさえ、私は死を想像して心を抑えているんだ。


「ごめんな早春。俺達の間には特別な感情はいらないって思ってたけど、どうしても止められなかった。早春まで余命が短くなってさ」


「謝らないでよ。私達が付き合ったのが間違いみたいに思えるでしょ。私達は、私の誕生日に出会って、色々あったけど恋人同士になったんだから。それを間違いだなんて思いたくない」


今なら、以前空が言っていたことがわかる。


眠るのが怖いという言葉。


残り時間が少ないのに、眠らなければ身体が持たない。


そして、寝て起きてしまえば、その日はもう終わったような感覚になってしまうから。


学校が始まる月曜日が嫌だと思うのは、大体が日曜日の夜で、月曜日が始まってしまえばすぐに終わるんだ。


私達は……それが早くて焦ってしまうんだ。
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