桜が咲く頃に、私は
放課後になり、翠を連れてアパートに帰る。


夢ちゃんはまだ帰っていなくて、寒い部屋を温める為にエアコンの電源を入れ、エプロンを身に付けた。


「はい。翠の。ここに来たってことは、今日も食べて行くんでしょ? だったら手伝わないとね」


「へいへい。おかげさまでメキメキ料理の腕が上達してますよ。あ、100円入れときまーす」


夢ちゃんが帰って来て二週間。


私も夢ちゃんも無意識で三人分の食事を作ってしまうことが多くて、その都度翠を呼んでいたら、いつの間にか呼ばれる前にいるようになった。


だから、一応食費として100円もらって、三人分作っているのだ。


翠用の貯金箱から、チャリンと小気味の良い音が聞こえた。


「ふーん。天川の写真、私が取った家族写真なんだね。いやあ、我ながら良い写真撮ったわ」


「夢ちゃんが言ったらしいよ。引き伸ばしたらちょっと粗くなるけど、それでも一番好きな写真だからって」


空の遺影、そしてフォトフレームに飾られている私達三人の写真を見て、フフッと翠が笑った。


「早春の写真も撮っておいてあげようか? 自分が納得出来る写真の方がいいっしょ」


「それならもうあるよ。私もそれが良い。三人で撮ったその写真が」
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