セカンドマリッジリング ―After story—
「この物件なんてどうですか? とてもお洒落で若い夫婦にも人気なんですよ」
颯真と花那の目の前に出されたパンフレット、もうこれで何枚目になるだろうか? 物件を選ぶ颯真の目は厳しく、なんだかんだと見学にすら首を縦に振らない。
彼が特に気にしているのはセキュリティーの面だ。どうせ隠れて引っ越したところで、深澤家の人間にはすぐに居場所がバレてしまうだろう。それならば簡単に入ってこれない環境を作るしかない。
「この家のこちら側、どうも気になるんですよね。何度も言いますが俺としてはオシャレな建物ではなく――」
「はいはい、セキュリティーが問題なんですよね? では一軒家ではなくマンションも視野に入れられてはどうでしょう? コンシェルジェが二十四時間対応してくれる所も紹介出来ますし」
確かにマンションの方が一軒家よりも安心出来るかもしれない、それでもまだ迷うのは花那が庭に花壇を作りたいと望んだからだ。
プランターなどでも育てられるかもしれないが、颯真の頭の中にはもう綺麗な花が咲いた花壇が出来上がっている。そこで微笑む花那の姿も……
「そうですね、もう少し考えてみます」
結局何件かの不動産を回っては見たものの、颯真の希望に合うような物件は見つからなかった。今から家を建てるほどの時間的猶予もない。
それを考えると、一時的にマンションに引っ越すべきかとも悩んでしまう。
「颯真さん、無理はしなくてもいいのよ? 私なら大丈夫だから」
花那はそう言ってくれるが、颯真の妹の真由莉や両親が彼女に対して何をしてくるかも分からない。そんな状況で一人にさせるのは心配で、気が気ではない。
そう考える颯真を花那はただ心配そうに見ていた。