セカンドマリッジリング ―After story—
貰ったパンフレットを何度繰り返し見ても、どうしてもここならばと言える物件がない。出来るだけ早く引っ越すべきだと分かっているのに、まだ迷っている。
花那と造りかけている花壇の事だけでなく、少ないとはいえ二人の思い出もこの場所にはあるから。本音を言えば颯真だってまだこの家で暮らしたいのだ、ここが花那と自分の居場所だと。
「あの、本当に私の事は心配しなくていいの。いざとなったら外に逃げるし、それに……いつかは向き合わなければいけなくなることなんだもの」
花那だってこれが避けられ続ける問題だとは思っていない。涼真が戻ってこなければ必ず颯真を次期社長にという事になる。
それを颯真や花那が少しも望んでいなかったとしても。
「ああ、分かってる。だがあの人たちは間違いなく君を利用するために追い詰めてくる、俺がいない間を狙って。そんなのは許せない」
心配なのは自分の事じゃない、誰より愛する妻を傷付けられたりしたくはなかった。今までだって花那には辛い思いばかりさせてきてしまったのだ、せめてこれからは二人で穏やかな日々が送れると思っていたのに。
「ありがとう、颯真さん。私はその気持ちだけで十分嬉しいのよ? マンションも一軒家もそう急いで探さなくてもいいの、少しの間ならホテルにでも……」
「そうか、その手があったか!」
颯真は花那の言葉を聞くと、すぐにスマホを取り出し誰かと通話を始めてしまった。