一途な部長は鈍感部下を溺愛中
折角覚悟を決めたけれど、予想外の登場に固めた決意も虚しく散っていた。
でももう、既に顔が熱いから部長の方を向けない。
やっぱり無理だよゆかりぃ、と内心で半泣きになりながら顔を上げて、思わず一歩後ずさる。
皆が、やけに生暖かい目でこちらを見ていた。
今日はどうやら私が最後の出社だったようだ。みんなが皆、何故か微笑ましいものを見るような表情をしている。最近、ずっとこうなのだ。
私が徹底的に部長から逃げ回っていた時は、皆心配そうな顔を向けてきていたのに、それは今もそこまで変わっていないはずなのに、皆から向けられる視線だけが前と違う。
そのどこか居心地の悪い視線に、「お、おはようございます……ッ」と小さな声で頭を下げて、肩から提げた鞄の紐をぎゅっと握りながら自分の席に着く。
少し遅れて、部長の革靴がタイルを叩く音が聞こえてきたけれど、やっぱりそっちを向くことは出来なかった。
「はあ……」
そうこうしている内にいつの間にか日が暮れ始め、気づけば今日も話せないまま夕方になっていた。
少し休憩しよう、とデスクに手をついて立ち上がる。