一途な部長は鈍感部下を溺愛中



折角覚悟を決めたけれど、予想外の登場に固めた決意も虚しく散っていた。


でももう、既に顔が熱いから部長の方を向けない。


やっぱり無理だよゆかりぃ、と内心で半泣きになりながら顔を上げて、思わず一歩後ずさる。


皆が、やけに生暖かい目でこちらを見ていた。


今日はどうやら私が最後の出社だったようだ。みんなが皆、何故か微笑ましいものを見るような表情をしている。最近、ずっとこうなのだ。


私が徹底的に部長から逃げ回っていた時は、皆心配そうな顔を向けてきていたのに、それは今もそこまで変わっていないはずなのに、皆から向けられる視線だけが前と違う。


そのどこか居心地の悪い視線に、「お、おはようございます……ッ」と小さな声で頭を下げて、肩から提げた鞄の紐をぎゅっと握りながら自分の席に着く。


少し遅れて、部長の革靴がタイルを叩く音が聞こえてきたけれど、やっぱりそっちを向くことは出来なかった。



「はあ……」


そうこうしている内にいつの間にか日が暮れ始め、気づけば今日も話せないまま夕方になっていた。


少し休憩しよう、とデスクに手をついて立ち上がる。



< 104 / 200 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop