一途な部長は鈍感部下を溺愛中
だからこの前はほんとに驚いたんだ、と西村さんははにかんだ。
「こんなチャンスもう無いだろうな、って思ったけどあの場じゃ何も言えなくて。だから今、こうして偶然会えて……」
そこで言葉を止めた西村さんが、ぐ、と一瞬息を詰め、何かを決意したような眼差しで私を捕らえる。
「佐藤さんて、彼氏いる?」
「えっ」
突然目の前に爆弾が落ちてきたような衝撃だった。
彼氏。それは今の私にとって最もデリケートな単語である。
笑ってかわそうとして、でも出来なかった。こちらを射抜く視線があまりにも真剣で。
でも、なんて答えたらいいのかも分からなかった。
彼氏じゃない、と即答するには、部長との間に起きた出来事はあまりにも刺激的で、見過ごせるようなものじゃない。
でも、彼氏です、と言うには確定的な何かが足りない。
頭のてっぺんや指先に口付けを貰ったら、もう彼氏だと思ってもいいんですか? それともやっぱり、唇じゃないからまだ駄目? なんて馬鹿げた質問を、一体誰に投げろというのだ。