一途な部長は鈍感部下を溺愛中



結婚する覚悟はあるのに、一夜を共にする覚悟が無いなんて馬鹿な話だ。


それに、ここで彼の誘いを撥ね付けて帰るだなんて、そんな顔に泥を塗るような真似が出来るわけもなかった。


「……っ、」


覚悟は、全然出来てない。

けど、意を決して薄いキーに指先を重ねれば、部長が立ち上がった。


「……もう会計は済ませてある。行こう」


そして、私の鞄も一緒に肩にかけ、私の側まで来ると腕を差し出す。


もう行くの? と、これ以上ここに居る意味もないのは分かっていながら、心の中で縋るような声を出してしまう。しかし勿論それが彼に届くことはなく、私はカードキーを握りしめながら、部長の腕に掴まるようにして立ち上がった。


「鞄、ありがとうございます」


そう言って受け取ろうと手を伸ばすと、首を振られてしまった。


「君はそれだけ持っててくれればいい」


それ、と視線で指し示された手の中のカードキー。

出来ることならこれが今一番手放したい、なんて思いながらも曖昧に頷く。


エレベーターに乗り込むと、長い指が最上階に近い階を押した。


< 159 / 200 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop