一途な部長は鈍感部下を溺愛中
結婚する覚悟はあるのに、一夜を共にする覚悟が無いなんて馬鹿な話だ。
それに、ここで彼の誘いを撥ね付けて帰るだなんて、そんな顔に泥を塗るような真似が出来るわけもなかった。
「……っ、」
覚悟は、全然出来てない。
けど、意を決して薄いキーに指先を重ねれば、部長が立ち上がった。
「……もう会計は済ませてある。行こう」
そして、私の鞄も一緒に肩にかけ、私の側まで来ると腕を差し出す。
もう行くの? と、これ以上ここに居る意味もないのは分かっていながら、心の中で縋るような声を出してしまう。しかし勿論それが彼に届くことはなく、私はカードキーを握りしめながら、部長の腕に掴まるようにして立ち上がった。
「鞄、ありがとうございます」
そう言って受け取ろうと手を伸ばすと、首を振られてしまった。
「君はそれだけ持っててくれればいい」
それ、と視線で指し示された手の中のカードキー。
出来ることならこれが今一番手放したい、なんて思いながらも曖昧に頷く。
エレベーターに乗り込むと、長い指が最上階に近い階を押した。