一途な部長は鈍感部下を溺愛中
どことなく息が詰まる沈黙を連れて私たちを乗せた箱は上昇していき、やがて軽快な音とともに止まる。
ゆっくりとドアが開き、部長が私を見た。
引き返すなら今だぞ、とこちらに囁くような。
部長の指は、ボタンを押していない。このままじっとしていれば、また扉は閉まる。今ならまだ、逃がしてくれるのかもしれない。
一瞬、日和った考えが頭を擡げた。
けれどすぐに振り払い、唇をかみ締めて、汚れひとつない廊下へと踏み出す。
倣うように部長も降り、背後で扉が閉まる。
まるで子供を褒めるかのような力で私の頭を叩いた部長は、迷うことなく歩き始めた。
やがて一つの扉の前で立ち止まった部長が、す、と身を引いて私を扉の前に立たせる。
私はすっかり汗の冷えた指先で、カードキーを翳した。
ピ、と短い電子音がなり、鍵が開いたことを知らせる。
おずおずと部長を見上げるも、部長は軽く小首を傾げるようにしただけで、何も言ってくれなかった。さあどうぞ? と言わんばかりの表情だ。
ええい、こうなったらもう腹を括るしかない。
頑張れ私! と自身に喝を入れながら、思い切って扉を押し開ける。