一途な部長は鈍感部下を溺愛中
「待たせたな」
後ろから声が掛けられ、びくりと肩が跳ねる。
少し前にシャワーの音が止んだことは分かっていた。私はバスルームの方向から背を向けるように、一番最初の大きな部屋で座って待っていたのだけど、声を掛けられても後ろを振り向けなかった。
そうしているうちに、スリッパがカーペットを擦る音が段々と近づき、湯上りのあたたかい空気を連れて座っていたソファーが沈み込む。
「……瑞稀?」
不思議そうな声で呼ばれ、優しく頭を撫でられると顔を上げないわけにはいかず、恐る恐る横を向いた。
「ん?」
こてん、と部長が首を傾げると、湿った茅色の穂先から、ぽとりと水滴が滴る。
微かに上気した頬に、濡れた唇。真っ直ぐ見続けていたら匂い立つような色気にオーバーキルされてしまいそうで、私は咄嗟に立ち上がった。
「あっ、あの、お茶でもどうですか!?」
淹れますね、と動き出そうとした腕を、パシッと掴まれる。
ドキッとしながら視線を落とすと、どことなく熱っぽい眼差しが、真っ直ぐに降り注いだ。
「飲まない」
時間稼ぎの言葉は、容易く切り捨てられてしまう。
そのままじっと私を見つめた部長は、やがて私の手を引いて寝室の方向へと歩き始めた。