一途な部長は鈍感部下を溺愛中
「……?」
不意に一瞬、目の前の景色がぐにゃりと歪んだような気がして首を傾げた。
しかし、次の瞬間には何事も無かったかのようにいつも通りの視界に戻っていたので、気のせいか、と思いすぐにまた止めていた指を動かし始めた。
──この時、自分の異変に気付いていれば。
いつもより体が怠いこととか、少し体温が高かったこととか、夏なのに、僅かに寒気を感じていたこととか。
あちこちに散りばめられた異変に気付いて、仕事をやめていれば、きっとあんな事にはならなかったのに。
「────ぃ……おい……! おい、君!」
ふ、と靄がかかっていたように霞んでいた思考が晴れる。
聞こえてきた声の主に思い至り、反射的に肩を跳ねさせながら横を向くと、視界いっぱいを綺麗な顔が埋め尽くし、そのまま椅子から転げ落ちそうになった。
「ぶ、部長……!」
「おっと」
ガタン、と大きく揺れた椅子を、東雲部長の大きな掌が支える。
ドキドキと騒がしい心臓を宥めながら改めて二つの琥珀を見つめると、部長の眉間に皺が作られた。
「まだ残ってたのか……?」
「あ、はい。すみません、今日はちょっと……」
仕事が進まなかったので、と素直に口にするのは辛くて、視線を落とし口ごもる。