ママの手料理 Ⅱ
「主人公の周りにゾンビが沢山出てきて、それを倒しながら安全な場所を目指すドラマだよ。5話まで一緒に見たんだっけ?」


「…ごめんなさい、覚えてないです。最初から観れますか?」


若干の間を開けて聞こえた紫苑ちゃんの消え入りそうな声は、俺の耳にも届いた。


俺は、そっと湊と顔を見合わせる。


“記憶、戻ってないね”


彼の澄んだ目は、そう言っていた。


「ああ、そうだったね…良いよ。観る前に説明してあげるね。まず、このボブヘアーの子は主人公の彼女。3話で意識不明になるんだけど…」


仁は一瞬ハッとした顔になって、けれどすぐにいつもの取り留めのない笑顔を浮かべて説明を始めた。


若干ネタバレをしている気がするけれど、紫苑ちゃんが突っ込まないから大丈夫なのだろう。



紫苑ちゃんの適応能力は秀でている。


記憶喪失なんてものともしていないような態度だけれど、誘拐される前の彼女は今よりも喜怒哀楽が大きかった気がする。


怪盗OASISに攻める前の彼女は、沢山泣いて怒っていた。


年が明けて日常生活に戻った後、彼女は自分の意見を物怖じしないで俺達にぶつけていた。


それなのに、今の彼女にはそのどれもが存在しない。
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