ママの手料理 Ⅱ
時計は既に1時を回っている、眠くなるのも当然だ。


「ああ。…俺が非番なのは来週の水曜で、早く帰って来れるのは来週の土曜だ」


「あ、俺水曜バイトないよ!」


想い人の声に被さるように、俺も手を挙げて発言をする。


一瞬だけ彼が俺の方を見てきたから、それだけで視界にハートマークがこれでもかという程飛び回って。


「僕達も予定はありません。水曜日にしましょう」


「んじゃ、お遊びは来週の水曜の夕方から。…他の奴らには俺から説明しとく。いいな」


最年少mirageの提案を受けた銀子ちゃんの声に、俺達は揃って頷いた。



「それじゃ、紫苑の記憶が戻るように……」


そして、ハッカーがおもむろに起き上がって手を宙に差し出し、その上に航海、続いて躊躇いつつも琥珀の左手が乗っかる。


最後に自分の手を重ねると、琥珀の手と自分の手が微かに触れ合って。



大きくて骨ばっていて、良くも悪くも誰よりも沢山のものを抱えてきた力強い手。


きっとこれまでにいくつもの幸せがその手から零れ落ち、苦しみだけを掴み続けても尚。


彼は自らの弱さから目を背けず、同時に人々が彼に与える最大級の愛情も余すことなく受け取ってきたのだろう。









「…大丈夫だ、大也」









不意にそんな声が聞こえた気がして、心臓の鼓動が一瞬でうるさくなる。




「頑張ろう、えいえいおー」


だから、銀子ちゃんの突っ込み所満載な棒読みの掛け声も、俺の耳にはほとんど入ってこなかった。
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