炎のシークエンス
ヤバい。私だ。
さあっと血の気が引く。どうしよう……

「心春」

連太郎が後ろからぎゅっと抱きしめる。まるで恋人にするみたいに。
すると、ふわっと連太郎のにおいがした。いつもの汗のにおい。今日も連太郎は仕事を頑張ったんだなって思う、汗のにおい。

ダメだ、ドキドキしすぎてまともでいられない。

「れ、連太郎、今日は仕事でしょ?ごめん、ゆっくり休めなかったね。私、帰る」

私はあわてて布団を出る。散らばっている自分の洋服を慌てて着込んだ。

「待って、少し話しようよ」
「ううん。帰る。仕事、頑張って。じゃ」

時計を見れば、早朝5時前。いまならまだ父さんたち寝てるから、朝帰りもばれない。
私はそうっと連太郎の家を出て、徒歩わずか1分の自宅に戻った。工場側からの入り口からこっそり入れば、家族には会わずに済む。

誰にも会わずに自分の部屋に滑り込めた。一安心して、自分のベッドに倒れこむ。


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