炎のシークエンス
シーン3.忘れてください、私は何も覚えてないので
※※※

それからすぐに会社を辞めて、今に至るというわけだ。

毎日、穏やかで。あれほどすさんでいた心が落ち着いていく日々。
それなのに。
まさか、酔っていたとはいえ連太郎と……。




「遅くなってごめんね!」

夜9時を回った頃、仕事を終えた桃子と会った。
桃子のご両親は仕事の都合で大阪に引っ越した。桃子は子供の頃から住み慣れたこの地を離れたくないと、一人暮らしをしている。その部屋にお邪魔した。

「で。ホントなの、心春。酔いつぶれてただ泊まっただけじゃないの?」

桃子は開口一番に尋ねてきた。

私は黙って着ていた服の襟を引っ張る。やわらかい胸元には無数のキスマークが見えるはずだ。

「うっ……レンレンのやつ、ずいぶん派手にやらかしたのね。
可愛い心春にこんなことして。あいつ今度会ったら半殺しにしてやる。ってか、今日も会ったのよ。遅くなったのは救急車の受け入れがあったからなの。あの時、首を絞めてやればよかったわ」

いつも通り仕事してたと知ってホッとする。

「連太郎、飲みすぎたうえに、あんまり寝てないの。平気そうだった?」
「あいつの体力は底なし。そんな心配してやることない。それより心春よ。せっかく元気になってきてたのに。大丈夫?」
「心配かけてごめん、桃子の言ってくれた通り、蜂に刺されたと思って忘れることにしたから大丈夫。連太郎も忘れてくれるといいんだけど」
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