炎のシークエンス
先生が呼ばれて振り向いたその瞬間、私の脳裏に焼き付く炎のシーンと重なった。


ーー真っ赤に燃える木造アパート。立ち上る炎を呆然と見つめていた、救助された女性ーー


「二葉先生。もしかしたら半年前、火事に遭いませんでしたか?」
「えっ!!どうしてそれを」

先生の反応から確信する。

「私、たまたま見たんです。連太郎が……消防士の赤城が助け出したところを。今みたいに振り返って、燃え盛る炎を見つめていた姿が今も鮮明に残っていて」
「赤城君のお知り合いですか?」
「……友人です」

なるほどと二葉先生は頷いた。

「あの日、炎は一瞬で私の日常を燃やしてしまった。
私、小児科医なんです。赤城君が命がけで炎から助けてくれたから、今もこうしていられる。
さっき、火事以来久しぶりに会えて。あの時のお礼をようやく言えました。そうしたら彼、『俺は二葉先生一人助けたことで、多くの子供たちの命も救えたんですね、この仕事やってて良かったぁ』って言ったんです。びっくりしちゃった。彼がまるでヒーローに見えました」

ヒーローか。まさにそう。私にとっても、連太郎はヒーローだ。

「火事に遭うなんてツイてなかったけど。色々あって結婚も決まって。すべて赤城君が助けてくれたおかげ。本当に感謝してます。
あなたも、無理しないでください。お友達が赤城君なら心強いわね」

先生がにっこり笑って去っていった。

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