炎のシークエンス
シーン4.恐怖を乗り越える勇気をください
自宅前に人影がある。
スーツをビシッと着てネクタイをキュッと締めた会社員だ。
その姿を見た途端。全身が硬直した。一気に汗が噴き出してくる。
「十倉(とくら)!よかった、今ご自宅に伺ったら留守だったから」
その男は、蛇のように細く鋭い目つきで私を見る。冷酷なその目が私をとらえるともう、何もいえなくなってしまう。
「これ、退職に伴う諸々の書類。それから部署のみんなからの餞別。
いきなり辞めたりするから余計な手間がかかる。社会人としてのマナーが足りない」
「……すみませんでした、課長」
そう、この男こそ私の人格を否定するようにいじめたパワハラ上司、吉光(よしみつ)課長だった。