炎のシークエンス
課長は横柄な態度のまま、私が入れたお茶を飲み干す。
私は手渡された書類に目をやった。
こんなもの、宅急便で送ってくれればいいのに。わざわざ実家まで持ってくるなんて。

「……しろ」
「え?」

渡された書類のことを考えていて聞き取れなかった。

「人が話してる時はきちんと聞いてろよ。相変わらずだな」
「すみません」
「今日はこの街に泊まる。明日、街の案内をしろ。いくつか見ておきたい物件があるんだ。昼飯は御馳走するから」

自分の耳を疑った。
この人、何を言ってるんだろう。私は会社を辞めた人間だ。なぜこの人の仕事の付き合いをしなくちゃならないんだ?

お断りします。
一言そう言えばいい。私には関係のないことだ。

でも、課長の蛇のような目の前ではすくんでしまう。もう条件反射のように頷くしか出来ない。

「明日朝9時にまた来る。
ここに行きたい物件の地図を置いていくから、回るルートを考えてくれ。土地勘を活かして無駄のないようにやれよ」


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