炎のシークエンス
その時だった。


「おはよー。あれ、心春、そんなカッコしてどこ行くんだ?」

自転車に乗った連太郎が颯爽と現われたのだ。ちょうど仕事を終えて帰ってきたところみたい。

「あぁ、なるほど。スーツにネクタイ。理想の相手ってわけか」

何も言わずにいる私とそばにいた課長をチラッと見て、連太郎は一人合点がいったようにつぶやく。


ーー違うよ、全然違うから。
そう思っているのに、緊張でこわばる口から言葉が出てこない。

「楽しんで来いよ。じゃあ」


連太郎、待って。助けて。お願い。
あの日、燃え盛る炎の中に飛び込んで二葉先生を助けたように。蛇のような課長の呪いから、私を助けて。


とっさに自転車のペダルを踏み込もうとした連太郎の行く手に立ち塞がった。
連太郎はびっくりして足を止め、私を見る。

一瞬、お互いの視線が重なり、でもすぐに交差した。

だめだ。声が出ない。

このタイミングで助けてと言えなかったら、もう無理だ。


「自転車の前に飛び出すなんて危ないじゃないか、十倉。全く間抜けな奴だ。時間がもったいない、行くぞ」

課長が淡々と歩きだす。私は仕方なくついて行こうとした。だが、いきなり強い力でグインと後ろに引き寄せられた。
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