炎のシークエンス
「ふん。私ともあろうものが十倉ごときに一瞬でも迷うなど……」

課長は特大のため息をついてからネクタイに手を当て、キュッと締めなおした。あれは、課長が怒りをまき散らし終えた時の合図。いつもネクタイを正してから通常業務に戻っていくのだ。

「邪魔したな。十倉、なるべく早く書類を送ってくれ。
そこの消防士くん。失礼なことを言ってすまなかった。だが、その格好ではどう見てもフリーターだぞ」

うそ……課長が、すまなかったなんて謝ってる。でも、そのあとに自分を正当化してるあたりやっぱり課長らしい。

「でも、この街の住人はみんな俺が消防士だって知ってるし。自転車通勤だから動きやすい身軽な服装のほうが理にかなってるだろ?」

課長はもう何も言わなかった。ただ肩をすくめ、連太郎に抱きしめられている私を見た。

「じゃあな、十倉」
「……お世話になりました」

課長が去っていく。その後ろ姿が見えなくなって。

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