天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
 その通り。ぐうの音も出ない。

「俺は止めましたよ」

 仁は離婚する必要はないと言っていた。

 なぜなら、俺がどれほど莉子を愛しているかわかっているからだ。

「まあでも、あの時点では啓介さんが日本を離れて小鶴が身を隠す以外なかったですからね」

 ああそうさ。少なくとも莉子を巻き込まずに済んだ。

 離婚すればさすがに母も莉子には接触をもたない。俺も小鶴も母の前から姿を消せば、やがて母も忘れるだろうと思っていた。

 結果的には見つけだされてしまったが、それでも二年離れた意義はあるはず。

「あのときはな。それ以外に考えられなかった」

 仁に向けて言いながら、自分にそう言い聞かせた。

 今思えば、俺は最初から別れを意識していた。
 小鶴と母というふたつの爆弾を抱えている限り、いつかこんな日がくると、どこかであきらめていた。

 その日がくるまで、せめて、莉子の力になれればいい。それだけで十分だと思っていたんだ。


「で? また向こうに行くんですか?」

「いや、これからはこっちで。母の様子を見ていこうと思ってる。京都と東京なら新幹線で二時間ちょっとで行けるしな」

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