天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
 向こうにいたんじゃ、すぐに帰って来られない。色々あったが母はたったひとりの母だ。父や兄も海外出張が多い。誰かしら日本にいなければ母も不安になるだろう。

「旨い鯛があるんですよ。茶漬け食べます?」

「お、いいな。頼む」

 仁が指示するまでもなくカウンターの中でシェフがにっこりとうなずく。

 そういえば、莉子がときどき夜食にいろいろな茶漬けを出してくれたのを思い出した。

 いつだったか新鮮な牡蠣があるからと作ってくれた。ワサビと三つ葉と海苔と、あれはうまかった。

 薄く切ったカラスミをつまみ、大吟醸を舐めるように飲む。

「どうです? たまには日本酒もいいでしょ」

「ああ。やっぱり日本人だな。ホッとするよ」

「向こうで女は? ブルネットの美人好きでしたよね」

「んー、そんな暇はなかったな」

 ブルネットの美人か。

 莉子と出会うずっと前は、何人か付き合った女がいたが、今はほとんど覚えていない。

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