天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
 浮かれた熱を冷ますように、脳裏に浮かんだ悲しみの夜が、みるみる心を冷やしていく。

 これでいい。もうあんな思いはしたくないから……。

 それからは仕事に集中できた。

 時計を見ないまま、ノックの音でお昼に気づいた。

「はい」

 顔を上げると啓介さんがいた。にっこりと笑みを浮かべて入ってくる。

「どうぞかけて。すぐに用意をするから」

 重箱を置き、カップを並べてスープジャーから味噌汁を注ぐ。

「はい、おしぼり」

「ありがとう」

 重箱を開くと、啓介さんは「おにぎりか」と頬をほころばせた。

「啓介さん好きだったから」

「今でも好きだよ。でも考えてみたら二年ぶりか……。莉子が作ってくれたおにぎりを食べたのが最後。ん?待てよ。厚焼き卵も二年ぶりか」

 割り箸を手に早速卵焼きに手を伸ばす彼を目にすると、ついさっきまで冷えていた心がじんわりと温まってくる。

 冷えたままでいいのに……。

「しばらくホテル暮らしになりそう?」

「ああ、そうだな」

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