恋桜~あやかしの闇に囚われて~
 後部座席に置いた大きなボストンバッグの中から、ミツルがオイルランプのような形のライトを出してきた。アウトドア用のお洒落なLEDランタンだ。

「何人か前に付き合ってた女の子がアウトドア好きでさ、これくれたんだよ。こんなときに役に立つとはなぁ」

「そうじゃねぇよ。そんなものしまって、早く帰るぞ」

 ランタンを光らせて、まだあれこれ荷物を広げそうなミツルの言葉を遮り、和真は車のエンジンをかけた。

「……あれ?」

「どうしたー?」

「エンジンが……かからない」

「はあ?」

 ガソリンはまだ十分残っている。バッテリー系統のトラブルやオーバーヒートの様子もない。ただ普段どおりキーを差しこんでもエンジンがうんともすんとも言わない。念のため車の周りを見てまわったが、傷があったり悪戯された気配もなかった。

「どうしたんだろう」

「故障? ロードサービス呼ぶ?」

「そうだなぁ。真っ暗になる前に呼んだほうがいいかも」

 和真はジーンズのポケットからスマートフォンを出して、ロードサービスに電話をしようとしたが、そこでもおかしなことに気がついた。

「……ミツル」

「ん? なんだよ」
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