あなたを憎んでいる…でも、どうしようもなく愛してる
店内は、先程ハリーが言っていた通り、かなり気合の入ったドレスやメイクの女性達が大勢いた。しかも、その多くが神宮寺狙いだと思うと恐くなる。
神宮寺が私を連れてきた理由が、なんとなく分かった気がする。
恐らく、神宮寺は寄って来る女性避けに、私を連れて来たのではないだろうか。
店中の女性たちの、鋭い視線がこちらに向けられているように感じる。
視線の矢が体中に突き刺さりそうだ。
その時、ハッ と私は自分に気が付くことがあった。
自分の服を、あらためて見ると、全くの普段着ではないか。
しかも、今日は病院に行くだけの予定だったので、いつも以上に地味な服装だ。
紺色のパンツに白のニットセーターを合わせただけだ。
おまけに足元は歩きやすいスニーカーではないか。
気が付いてしまうと、とても肩身が狭い。
なんだか、とても恥ずかしい気分になる。
すると、一人の女性が神宮寺に近づいてきた。
明るいブラウンの巻き髪と、少しセクシーな口元の黒子が印象的な女性だ。
淡いパープルのワンピースが、とても雰囲気に合っている。美しい女性だ。
どこかのご令嬢というイメージがある。
「悠斗、久しぶりね…こんなところに立ってないで、こちらで一緒に飲みましょうよ。」
その女性が神宮寺の腕を掴もうとした時、神宮寺はその手をあっさりと振り払った。
「祥子、悪いが…桜を一人にできないから、遠慮しておくよ。俺の大切な彼女なんだ。」
神宮寺が祥子と呼んだその女性は、私を頭のてっぺんからつま先まで見下ろすと鋭い視線を私に送った。
「あんまり地味だから…いらっしゃるのも気が付かなかったわ。よくその服装でここに来れたものね。」
神宮寺は、呟くように言った祥子の言葉を聞き逃さなかった。
「祥子、…今、何ていった?桜を馬鹿にするなら、俺はお前を許さないからな!覚えておけ。」
祥子は唇を噛みしめて、顔を真っ赤にしてフルフルと小刻みに震えている。
一度私を厳しい目で睨むと、祥子は悔しそうな表情でどこかへ歩いて行ってしまった。
すると、神宮寺は私の耳元に顔を近づけた。
「桜…悪いな、嫌な思いをさせて…気が付かなかった、俺の責任だ。」
耳元で囁いた神宮寺の吐息が、耳にかかり熱くなる。
ただ、それだけのことなのに、心臓がドクンと大きな音を鳴らした。
神宮寺は偽りの恋人を演じているだけなのに、私の心臓は大きな音を出し始めている。
こんなことでは、この店を出るまで私の心臓は持つのだろうか。