あなたを憎んでいる…でも、どうしようもなく愛してる
「久しぶりだね、神宮寺君…君の噂は聞いているよ…会社も順調のようだし…流石だな。」
神宮寺は、祥子の父親と思われる男に笑顔を向けた。
「お褒めいただき光栄です。進藤さん。」
神宮寺は祥子の父親を進藤と呼んだ。
祥子は進藤という苗字のようだ。
「進藤さん、今日は僕の彼女を紹介したいのですが…よろしいでしょうか。」
「彼女だと?」
進藤は眉間に皺を寄せている。不快な気持ちが顔に現れた。
「僕の大切な女性です。…伊織桜さんです。」
神宮寺は、私の肩に手を置きながら微笑んで進藤に紹介をした。
神宮寺がお得意の完璧な営業スマイルだ。
進藤は、神宮寺ではなく、私の方を真っすぐ向いた。
「…桜さん、初めまして進藤です。…いきなり、こんな話で悪いが、神宮寺君と付き合っているそうだね…しかし、結婚は諦めてくれ、神宮寺君は祥子と結婚させることにしたんだよ。」
この男は何を言っているのだろうか。初対面の私に向かって言う言葉だろうか。
私は驚きのあまり、言葉が出なかった。
すると、神宮寺が穏やかに進藤に向かって話し始めた。
「進藤さん、…いったい何を仰ってるのでしょうか。…僕は祥子さんとは結婚は出来ません。ご期待に沿えず申し訳ありませんね。」