あなたを憎んでいる…でも、どうしようもなく愛してる

会社入り口で受付にいる女性2名が、早速動き出した。
私達の姿が見えると、カウンターから出て神宮寺と須藤に、それぞれ引き寄せられるように近づいた。

「神宮寺社長、お待ちしておりました。…あっ、ネクタイが曲がっておりますわ…失礼します。」

神宮寺に近づいた女性は、ネクタイを直しながら、頬を赤くしている。
なんとなく、あざといと思ってしまう。

「須藤様、肩にゴミが付いております…」

須藤に近づいた女性も、さりげなく須藤に触れている。

神宮寺と須藤もわざとらしい営業スマイルだ。見ている私は、大きく息を吐いて、思わず溜め息が漏れてしまう。


私は一日でも早く、神宮寺の弱味や隠し事などを探りたい。
そのために、この会社に来たのだから…。


私達は、先方の会社の社長室へと案内された。
この会社のエレベーターは外が見えるように、片側がガラスのシースルーになっている。エレベーターが昇っていくと、街を歩く人たちが小さくなっていき、遠くには、小さいが富士山も顔を出しているのが見えた。

社長室はビルの最上階だ。

エレベーターが止まり、ゆっくり戸が開くと、そこには社長秘書と思われる、30代くらいの男性が目の前に立っていた。
笑顔で挨拶をしたこの男性は、社長室へと私達を案内してくれた。

私達が社長室に入ると、中から社長と思われる男性が微笑みながら近づいてきた。

この会社の社長も、年齢は神宮寺達と同じくらいに見える。
ただ、少し小太りで顔はテカテカと脂ぎっている。遠慮したいタイプだ。

「ご無沙汰しております。西田社長…今日は新しい秘書を紹介しようと思って連れてきました…伊織桜と言います。よろしくお願いします。」

神宮寺が私を先方の社長である西田に紹介してくれた。

「神宮寺さんの秘書は羨ましいな…神宮寺社長はイイ男でしょ…ハハハッ」

西田社長は冗談を言いながら、私に握手をした。しかし、なかなか手を放してくれない。
西田の手は汗なのか、少し湿っていて、気持ち悪い。
握手をしている親指が、ねちねちと私の手を擦っている…ものすごく不快だ。
すると、神宮寺はさりげなく西田と私の真ん中に入った。

「西田社長、うちの秘書は少しシャイなようで、熱烈な握手にドキドキしているようですよ。このままだと、社長に惚れてしまいそうです。ほら、もうこんなに真っ赤な顔になってしまいました…なので、解放してやってください。」

神宮寺は私を助けてくれたようだ。
さすが、元営業でトップだった男だけある。やり方が嫌味なく感じる。


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