あなたを憎んでいる…でも、どうしようもなく愛してる
私と須藤は、ほぼ同時にドアの方を見た。
そこには、白衣を着た一人の男性が立っていた。
背は高いが、ひょろりと細い体に、身体のわりに小さな顔。
細い銀縁の眼鏡をかけて、ふわふわと短いくせ毛のような茶色の髪。
神宮寺や須藤のような目を引く美男子というほどではないが、よく見ると整った顔立ちをしている。
須藤はすぐに立ち上がり、その男に近づいた。
「速水、神宮寺が世話になったみたいだな。」
すると、速水と呼ばれた男性は表情を変えることなく話し出した。
「今は眠っているが、恐らく目が覚めれば問題ないだろう。…それにしても、神宮寺はよくここまで来られたと、感心するよ…タクシーに乗って、うちの病院の名前を伝えたら、そのまま気を失っていたみたいだぞ。」
神宮寺は祥子の家から何とか逃げ出し、タクシーに乗り、この病院の名前を言ったようだ。
眠ってしまった神宮寺を、タクシードライバーが運んでくれたのだろう。
「速水、ありがとう…助かったよ。」
「あぁ…、でも暫くは安静だからな、神宮寺に無理はさせるなよ。」
速水は須藤と一通り話を終えると、横にいる私の方を見た。
「もしかして…君は桜さん?」
いきなり初対面の速水に名前を言われて驚いた。
私は驚き過ぎて、何と答えて良いのか、声が詰まった。
「あ…あの…わ…わ…私は、伊織桜ですが…なぜ、私の名前をご存じなのですか?」
すると、無表情だった速水がニコリと笑った。
「やっぱりそうか…神宮寺が寝言でうわ言のように、“桜”という名前を言っていたんだ。君のことだったんだね。」
神宮寺が私の名前を言っていたと聞き、顔が急に熱くなった。
しかし、何故か恥ずかしいが、少し嬉しいと思ってしまう自分がいた。
速水は、神宮寺の様子を確認して、私と須藤の方を向いた。
「神宮寺が起きたら、もう一度、俺を呼んでくれ…俺は他の患者の診察があるから、戻るけど…まあ、目が覚めるまでゆっくりしてくれ…待っているしかないからな。」
速水は話し終えると、すぐに部屋から出て行ってしまった。