西園寺先生は紡木さんに触れたい
「やあ。珍しいね。」
抱きしめる代わりにそう声を掛けた西園寺に、紡木はびくりと肩を揺らした。
「あ…鍵。すみません、すぐ出るので。」
紡木は真っ直ぐを向いたまま、声の震えを抑えてそう言った。
「ううん、僕も少しここにいようかな。」
「えっ…。」
思わず西園寺の方を振り向いた紡木の目は、赤く潤んでいた。
「はは、夕陽が眩しいね。」
「はい…。
…ごめんなさい、私帰らなきゃなので。」
紡木はそう言うと、早足に屋上のドアへ向かった。
「紡木さん!」
西園寺が勢いに任せてそう言うと、紡木の足はピタリと止まった。
西園寺の呼びかけにはくるりと顔を向けた紡木は、もういつもと同じ顔をしていた。
いや、いつもよりも、もっと
壁を感じるような表情。
「…また明日。」
そんな紡木に、西園寺はそう声をかけることしかできなかった。
…あの時馬鹿な僕は、これが恋心だと気づいていなかったから、抱きしめることさえできなかったんだ。
でも今は違う。
彼女が世界で一番大事な人だから。
僕は君が好きだと気づいたから。
彼女が辛い時には、僕はただ優しく抱きしめたい。
そんなことを言ったら今度こそ本当に彼女に嫌われそうだから、僕だけの秘密にしておこう。
西園寺は心の中で呟いてからくすりと笑うと、紡木は「…なんですか。」と怪訝な表情で西園寺を見つめた。
「ううん、秘密。」
そう言って西園寺はパクリと一口、サンドイッチにかぶりついた。