西園寺先生は紡木さんに触れたい
「葵!」
紡木がそう名前を呼ぶと、葵はくるりと振り返った。
「…ごめん。私、余計なことしたみたいで…。」
そう俯きがちに話す紡木に、葵は力なく笑って首を横に振った。
「ウチも、怒っちゃってごめんね。」
「…蓮と昨日何かあったの?」
紡木がおずおずと聞くと、葵は少し間を開けて話し始めた。
「昨日ね、蓮と一緒にご飯食べてたら、楽しくて、幸せで、やっぱりウチ、蓮のこと好きなんだって…
そしたら丁度、蓮のお母さんとでくわしてね。すごく睨まれて…『まだ蓮と付き合ってたの?』って言われて…ウチもそれは我慢してたんだけど、
蓮が少し席を外している間に、『蓮の将来を思うなら、もう二度と近づかないでちょうだい』『貴方みたいな子は霧島家に相応しくない』って言われたの。」
今にも泣き出しそうな葵の肩を、紡木は近寄って優しく撫でた。
「…結婚ってさ、ウチと蓮だけがするわけじゃなくて、2つの家族が一つになるってことだから…そんなこと言われたら、ウチ、もう…身を引くしかないなって…本当は好きなのに、好きでいることもしんどいの……。」
そう静かに呟く葵の瞳から、ついにぽろりと一粒涙が溢れた。
「ツムちゃん、ごめんね…もう、本当にそっとしておいてほしいの。」
「…うん。」
「ウチはもう、蓮を諦めたいから…。」
紡木はどんな言葉をかけたらいいのか分からず、ただ葵を優しく抱きしめた。
そんな2人を物陰からひっそりと見つめる人影に、2人は気づいてはいなかった。