西園寺先生は紡木さんに触れたい
「おばーちゃん、どう?」
花火大会の当日。母に浴衣を着付けて貰った紡木は、祖母の目の前でくるりと一周した。
「あらまあ花奏ちゃん、やっぱり可愛いわねえ。」
そう言って柔らかく笑う祖母に、紡木もえへへ、と笑った。
「本当に、紡木は美人よねえ。私に似て。」
母がそう誇らしげに言うと祖母は「何言ってんのかね。」と笑い飛ばした。
「花奏ちゃん、悪い男に捕まったらいかんでねえ。
うちのお父さんみたいに優しくて男前じゃなきゃあ、婆ちゃん許さんでね。」
ふと真面目な顔をして言う祖母の言葉を、紡木は「はいはい。」と流した。
「本当だでね。アンタのお父さんみたいな浮気ばっかする男、婆ちゃんは許さんよ。」
特段厳しい顔をする祖母に、紡木は少しうんざりして「はーい。」と適当に返事をすると、玄関に向かった。
紡木は物心ついた時から祖父母と母と4人だけで暮らしてきた。
父は浮気が理由で母と離婚したと聞いたが、父の顔を、父と過ごした日を思い出そうとしても、紡木は全く思い出せなかった。
祖母はそんな父のことを事あるごとに非難したが、紡木は特になんとも思っていなかった。