西園寺先生は紡木さんに触れたい

『只今より花火の打ち上げを始めます』というアナウンスに、屋台がある場所から見晴らしの良い場所へと移動しようと、会場の人の流れが一気に乱れだした。


「あっ、優奈!」

「ツ、ツムちゃん!」「花奏!」


一瞬のうちに2人とはぐれてしまった紡木は、どうしようかとオロオロした。


「お、さっきのお嬢ちゃんじゃん。」


その声の方を向くと、ジュース屋のお兄さんが手をひらひらと振っていた。

「あ、ジュース屋のおじさん…。」

そう涙目で言う紡木に「おじさんって…俺まだ26だけど…。」とポリポリと頭をかいた。


「お、なんだ、お好み焼き買ってないの?」


紡木の手元を見るなりお兄さんがそう言うと、「人が多くて買えなかったんです。」と返した。


「しょうがねえなあ…はーい!みんな買わないならどいてね〜!!」


そう言ってお兄さんは女性の群れをかき分けていった。


紡木は訳もわからず黙ってそれに続いていった。


「よお、千秋(ちあき)、さっきぶり。…あれ、けーちゃんは?」


お兄さんは、お好み焼きを焼いている千秋という美女に声をかけると、千秋は顔を上げた。


「んーどっかいった。ていうか樹(いつき)、店番は?」


「はあ?んだよ〜、せっかく絶世の美男美女カップルを見せてやりたかったのによ〜。」


そう言う樹を、千秋はぎろりと睨んだ。

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