西園寺先生は紡木さんに触れたい

「…クマ、すごいですよ。」


「…え?…あ、僕?」


突然の言葉に、西園寺は思わず紡木を見下ろした。

紡木は西園寺を視界に入れることもなく、真っ直ぐを向いて続けた。


「もっと栄養のあるもの食べてください。」


「え、あ、うん…。」


「…手を出してください。」


「ん??こ、こう…?」


西園寺が戸惑いながら少し身を屈めて紡木の前に掌を差し出すと、紡木は制服のポケットをガサガサとまさぐって、ぽとり、と西園寺の掌の上に落とした。


「チョコレート…?」


自身の手に落とされた透明な包み紙に包まれた茶色の固形物を見てつぶやくと、紡木は「はい。」と返して立ち上がった。


「チョコレートは、完全栄養食品なんです。」


え、そんな話聞いたことないけど…。


真面目な顔をした彼女にそう突っ込もうとしたが、その前に「じゃあ。」と言って手にパックジュースを持ったまま、その場から立ち去っていった。


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