西園寺先生は紡木さんに触れたい
「えーっと、1、2、3…うん、これで全員だね。」
本格的な夏の始まりを告げるかのように、微かに蝉の鳴き声が聞こえてくる化学室。
今日は化学の補講の1日目。
いつもよりしっかり目にメイクを施した葵と、いつもより香水の匂いがキツい蓮と、その間に挟まれて青白い顔をした紡木の顔を確認すると、西園寺はよし、と呟いた。
「じゃあ、始めよっか!」
そう言って西園寺はプリントを配り始めた。
「まずは一緒にやってみよう。わからないところがあったら言ってね。」
西園寺がそう言うと、葵は「はい、はーい!」と元気よく手を上げた。
「遠藤さん、どこがわからないのかな?」
「先生って彼女いるんですか?」
そう上目遣いで聞く遠藤に、西園寺は苦笑いを浮かべて「遠藤さん、そういう質問はまた後でね。」と軽くあしらった。
「え〜、気になってプリントに集中できない〜!ね、ツムちゃん。ツムちゃんも気になるよねえ?」
そう急に話を振られた紡木は、一瞬ビクッとして「ハハ…。」と笑って誤魔化した。
「…彼女はいませんよ。はい、じゃあプリント頑張りましょうね。」
彼女がいない、という言葉にきゃーという叫び声と、大きな舌打ちが両隣から聞こえてきて、紡木はため息をついた。