西園寺先生は紡木さんに触れたい
『せ、せんせ…。』
「つ、紡木さん??何かあったの?」
いつもより心なしかか細い声の紡木に、西園寺は焦って被せ気味で紡木に聞いた。
『あ、いや…いつも乗ってる電車が人身事故で、運転見合わせってなってしまって…補講が間に合いそうにもないんですけど…。』
そう申し訳なさそうに言う紡木に、事件や事故に巻き込まれたわけではないことにホッとすると西園寺は「…今どこにいる?」と、確認した。
紡木は素直に今いる駅の名前を告げると、「わかった、そこにいて。今から行くから。」と言って電話を切った。
そして車の鍵と貴重品をポケットに詰め込むと、化学室の黒板に書き置きを残して自身の車へと走っていった。
突然切れた電話と、『今から行くから。』という西園寺の突拍子のない言葉に一瞬呆然としていた紡木だが、駅のアナウンスにハッと我に返った。
え、いやいや。
今から来るって??
来ても補講に遅れちゃうし、補講に先生がいなかったら意味なくない!?
紡木は一人でパニックになった。
そのまま一度駅の改札から出て、ロータリーの近くのベンチに座ってボーッと人通りを眺めていた。
そっかあ。学生は休みだけど大人は働いてるんだもんなあ。
駅前で行き交うスーツの男性や、オフィスカジュアルな女性の姿を見て思い出したかのようにそう呟いた。
…来年から、私もその仲間入りかあ。
自分で選んだ道とはいえ、働くという未知数の事に不安を覚えた。