敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている

 答えは〝はい〟以外は認めない。

 でも、今になって匡くんとの結婚に二の足を踏んでいる自分がいる。

 直前に和磨のことがあったからかもしれない。もしかしたら匡くんも私のことを騙そうとして結婚を提案しているのではないかと悪い方に考えてしまう。

 結婚して、また裏切られて捨てれられて離婚して……。

 匡くんはそんなひどいことをするような人じゃないとわかっているのに疑ってしまう。

 こんな私はやっぱりもう恋愛も結婚もしない方がいい。離婚したときにそう決めたのだから……。

 それに、ネイルサロンを続けたいから匡くんと愛のない結婚をして、彼に衣食住の保証をしてもらうのは和磨が私にしていたことと似ているような気がした。

 私は、バラの花束をぎゅっと抱き締めてから「匡くん」と、目の前の彼の名前を呼ぶ。

「私やっぱり結婚はできな――」

 最後まで言い切ることができなかったのは匡くんが私の唇を自身のそれで塞いだから。ゆっくりと離れていく彼の顔を見つめながら、私はぱちりと瞬きを繰り返す。

 匡くんとキスをしてしまった……。

「言っただろ。答えは〝はい〟以外は認めないって」

 すぐにでも俯いてしまいそうな私の顎を掴んで上を向かせながら匡くんが少し怒ったように言った。そんな彼を見つめながら、先ほどのキスの余韻が残る唇を震わせながら私もなんとか言い返す。

「でも私、結婚してまた裏切られたらって思うとこわくて」
「どうして裏切る前提で考えるんだ」
「だって離婚してからどうしてもそう考えちゃうんだもん」

 トラウマが消えない。和磨に裏切られたとき、本当に悲しくてつらかったから。
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