敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
愛してる、なんて私たちはそういう関係じゃないのに……。
「どうした」
バラの花束を抱えたまま立ち尽くしている私を匡くんが訝しげな表情で見つめる。一度視線を泳がせた私は再び匡くんを見て尋ねる。
「えっと……どうしてプロポーズしてるの?」
恋人関係でもない私たちの間にそんなものは必要ないはず。けれど、匡くんはさも当たり前のようにさらりと答える。
「結婚するんだからプロポーズはするだろ」
「でも私たちにそれは必要ないんじゃないかな」
三カ月前の焼肉店で匡くんに提案されて私たちは結婚を決めた。わざわざプロポーズまでする必要はないはずなのに。
もしかして匡くんは形式にこだわる人なのだろうか。彼の頭の中では結婚とプロポーズがセットになっていて、形だけでもプロポーズを済まそうと思ったのかもしれない。
……あ、わかった。
それならさっきの『愛してる』も、プロポーズの定番の言葉として使ったのかも。
そういえば匡くんは演技が得意だ。母に結婚の挨拶をしたときもまるで本心を言っているように聞こえたから、さっきのもそういうことなのだろう。