敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている

 このままだと私が匡くんに声を掛けられない。忙しい彼から兄の誕生日プレゼント選びに付き合うのは午前中だけだと時間制限されているのに、私に与えられている時間がどんどん減ってしまう。

 あのしつこい女性たちから一刻も早く匡くんを解放しないと。でも、どうしたらいいんだろう……。

 少し考えて私はハッとひらめいた。匡くんの彼女が登場したらさすがにあの女性たちも連絡先交換を諦めるだろう。よしっ、私が彼女になろう。

 中学生にしてはナイスなひらめきをした私は意気込んで匡くんたちに向かってずんずんと進んでいった。

「その人、私の彼氏なんですけど」

 自分よりも年上の女性たちに向かって私ははっきりと言ってやった。

「……杏?」

 匡くんが、お前なに言ってんの?とでも言いたげな顔で私を見下ろす。

 女性たちも突然現れた私をぽかんとした表情で見つめていたが、しばらくするとそのうちのひとりがバカにしたような笑いを漏らす。

「は? 彼女?」
「見えないんだけど」

 もうひとりの女性も私を見下ろして笑っている。その姿になんだかムッとした私は、匡くんの腕に自身の腕を絡めてぎゅっと抱き着いた。

「私は彼女です。この人はこれから私と約束をしているのでもう行きます。さようなら」

 早口でまくしたて、匡くんの腕を引っ張ってその場を離れる。女性たちは追いかけてこなかった。

 どうやら〝彼女のフリ作戦〟は成功したらしい。
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