敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
昨年のクリスマス――私の二十八歳の誕生日でもあるこの日に私と匡くんは婚姻届を提出した。私はもう南沢杏ではなくて藤野杏なのだ。
結婚して二週間以上が経つけれど、私たちの関係に目立った変化はない。
年末年始も匡くんは仕事で、ネイルサロンの定休日が三十一日から三日までだった私と休みが重なったのはたったの一日だけ。
その日にふたりで初詣に出掛けておみくじを引いたら匡くんは大吉で私は凶だった。昨年は離婚をして最悪な一年だったから今年こそは良い年にしたいと思っていたのに幸先が悪いスタートである。
落ち込む私の手からおみくじを抜き取った匡くんが、境内に設置されている結び所の一番高い場所にそれを結んでくれた。
『あまり気にするなよ。大吉の俺と一緒にいれば良いことあるから』
そういうものなのだろうか。たぶん大吉にそこまでのご利益はないと思うけれど、沈んでいる私を励ますように匡くんの大きな手が私の頭をぽんと撫でた。その仕草にドキッとしたのは内緒だ。
私にとって匡くんは兄のような存在。それはこの先もずっと変わることがないはずだったのに、クリスマスイブのプロポーズから崩れつつある。
私たちの関係に目立った変化はないけれど、私の気持ちは変わり始めているのかもしれない。
匡くんの顔を見ると落ち着かなくなったり、軽いスキンシップをされたりするだけで胸がうるさく鳴り出す。
思いがけない告白から、私はもう彼のことを兄のようには見られなくなっていた。
でも自分の気持ちがまだよくわからないので、告白の返事は保留になっている。