敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
それでも匡くんはマフラーを気に入ってくれたようで初詣のときにさっそく巻いてくれた。もしかしたら気を遣ってくれたのかもしれない。
そんな話もしながら夕香さんと会話を楽しみつつ、パウンドケーキを食べ終わり紅茶も飲み終えたところで夕香さんのスマートフォンが鳴った。
慎ちゃんからだわ、と夕香さんが呟いたので仕事中の兄からだろう。電話に出た夕香さんが兄と話している間、手持ち無沙汰になった私はラグの上で遊んでいる母と雄心くんのもとに向かい仲間に入れてもらうことにした。
孫はかわいいわね~、早くもうひとり増えないかしらね~、と私をちらちら見ながら呟く母の言葉は聞き流しておいた。
「えっ、杏ちゃんに?」
兄と電話中の夕香さんから突然名前を出されたので振り返る。
「ごめんね、杏ちゃん。慎ちゃんが電話を代わってほしいみたいなの」
「私ですか?」
不思議に思いつつスマートフォンを受け取って耳に当てた。
「もしもし」
『おっ、杏。お前がちょうどうちに遊びに来ていて助かった。悪いんだけどこれから羽田に来て』
「羽田? なんで?」
すると、兄が焦ったように言葉を続ける。
『これから出張でアメリカに行くんだけどパスポート忘れた。今から取りに戻っていたら飛行機の時間に間に合わないから届けてくれないか』
「えー、やだよ。羽田まで行くの」